Vehicle Vol.3 『発注』 feat.山本雄基 日時:2020年5月15日18:00〜 場所:Zoom 


 第3回のVehicleのテーマを『発注』として、自身の必要とするアクリルエマルションメディウムをメーカー(ホルベイン工業株式会社)に調合依頼し、制作に使用しているペインターの山本雄基さんにお話を伺っていきました。

 山本雄基さんは円などの抽象形態を描き重ねることで作品を制作しています。その画面の上で多くを占めている材料が、各層ごとに塗り重ねて削り、を繰り返すことで積層するアクリル樹脂。

(画像:山本雄基さんスタジオ。作品とともに材料のアクリルエマルションメディウムのボトルや段ボールが積まれている)

 山本さんがメーカーとのやりとりからアクリルエマルションメディウムを取り寄せるようになったのは、以前使用していたセミグロス(半光沢)のアクリルメディウムが国内で手に入らなくなってしまったことがきっかけだったそう。地元の画材店・大丸藤井セントラルさん(札幌)の仲介により、ホルベイン工業株式会社さんとのやりとりが始まっていったとのこと。メーカーにニーズを伝え、サンプルを取り寄せて使用感を伝える、という往復を数回経て、現在の調整に至っているとのことです。

(画像:山本雄基さん作品エッジ部分。5mm前後の厚みでアクリルメディウムが積層している)

削り感や光沢の調整、ハンドリング面、変色具合などいくつかの点についての確認を繰り返すことで、発注時のやりとりがそのまま山本さんの制作姿勢や制作物につながっていく様子を共有することができました。

(※このような材料の”特注”は、山本さんの年間購入量や生産ロットの関係などの諸条件を加味したうえで実現したそうです。)


(画像:作品表面の光沢具合)

(画像:作品表面の光沢具合をZoomを通して参加者と共有)

(メーカーとのやりとりの末に調整したアクリルメディウムを実際に見せてもらう)

(表面に塗布する様子のデモンストレーション)

(塗布後の様子)

(山本さんのメディウム実演とともに、加藤も自作アクリルジェッソを練り合わせる様子を中継。Primal AC35、炭酸カルシウムを主に使用。)

 また、日々の会話で「自身の制作から円の配置の自意識を遠ざけたい」と発言したことから端を発して、乱数で円を数層重ねるシミュレーションが可能な画像生成ソフトの開発をアーティストに依頼したりと、その”制作外の”会話が制作に関わってくる例を多く示してくださいました。

(画像生成ソフト作成:大橋鉄郎さん)

 活動拠点である札幌市の画材屋との日々のコミュニケーションから、材料にまつわる「チーム」が自然発生し、やりとりが円滑になっていったことが、制作に直接的な影響を与える貴重な例として、気付きの多い体験談であったように思います。

 

 勉強会ではカメラ越しにアクリル樹脂の練りや塗布をし合ったり、その制作内容についての会話に至ったりする一幕もあり、充実した内容となりました。

Vehicle Online 『制作スタジオ』2020年4月9日 18:00〜20:00 場所:Whereby(オンラインミーティングサービス)

Vehicle Online Vo.1 『制作スタジオ』@Whereby レポート

 

『制作スタジオ』をテーマに、ウェブ上でそれぞれのスタジオを繋いで制作材料や作業環境についての話をしていきました。

参加者(計8名)は岐阜、京都、金沢、東京、札幌と都市圏をまたいで幅広く集まりました。

それぞれのスタジオの条件には

・都市部か住宅街か人里から距離のある場所か

・シェアスタジオか、個人スタジオか

・住居と併設しているか、通っているか

などの違いがあり、

テンペラ系、フレスコ・壁画系、日本画系、アクリル系、彫刻系、デスクワーク中心

といった制作のメディアの違いからも作業スペースの構築の仕方の違いが見られました。同時に、生活と作業環境の構成のしかたがそれぞれの作品制作の違いにつながっていることを意識することができました。


<加藤巧スタジオ(岐阜市内)>
岐阜市内に住居兼でスタジオを構えている。建屋の1階ガレージをスタジオに改装。色材を顔料で揃えて、適宜卵、乾性油、アクリル樹脂その他の展色剤と混ぜて絵具を作る。下地の作業のため、平置きできる土間が必要。材料の変化に敏感になるため、住居兼のスタジオが好み。『STUDIO2-2-2』としてオープンスタジオやイベントを企画することもある。


<川田知志スタジオ(HAPSスタジオ内・京都市)>
東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)の運営する元新道小学校の教室(普通教室・64m²)を使用。壁面をフレスコ用にしてあり、壁画系の制作がしやすい仕様。壁に直接漆喰を塗ったり、時には壁面の構造ごと切り抜くすることもある。

<川田知志スタジオ(HAPSスタジオ内・京都市)>
制作用机。粉塵が多く発生するため、床も養生して使用している。

<乃村拓郎スタジオ(京都市郊外)>
2019年に京都北部山間地域の古民家に移住し、自宅兼スタジオとして整備をしている途中。
生活と制作が連続するあり方を試行している。

<乃村拓郎スタジオ(京都市郊外)>
近辺で手に入る自然物から合成樹脂、金属、ガラスまで幅広く使用する。

<山本雄基スタジオ(なえぼのアートスタジオ・札幌市内)>
元缶詰工場の2フロア約270㎡を18~20組でシェアしている。作業はアクリル絵具系。

<山本雄基スタジオ(なえぼのアートスタジオ・札幌市内)>
メーカーと交渉して調整したアクリルメディウムを使用している。メーカーとのやりとりの話や、使用感、発注方法などにも話は及んだ。

<山本雄基スタジオ(なえぼのアートスタジオ・札幌市内)>
研磨スペースを別室に用意している。

<松平莉奈スタジオ(京都市内)>
最近共同スタジオから個人スタジオに拠点を移し、制作場所を立ち上げ直している。制作は日本画系。

<松平莉奈スタジオ(京都市内)>
使用している膠。上から三千本膠、粒膠、京上膠。粒膠は天野山文化遺産研究所のものを使用。ミーティングは和膠と洋膠の違い、発注先などの話題にも発展した。

<堀至以スタジオ(「スタジオゆ」内・金沢市内)>
2019年12月に発足した、温泉施設の3階にある共同スタジオ。1階が温泉なので、作業後に入浴できるのだそう。

<堀至以スタジオ(「スタジオゆ」内・金沢市内)>
内部。面積は8×20mほど。

ミーティングでは

・最近試している素材(ジェスモナイトの番手の違いによる使用感のことなど)

・独自の発注方法(メーカーとの交渉の仕方)

・こだわっている素材(紙、膠など)

にも及び、材料の微細な違いについても共有することができました。

 

なお今回は、オンラインでの開催ということで、「whereby」というオンラインミーティングツールを使用しました。無料で4名まで、pro契約(有料)で12名までの同時通信が可能なツールですが、

・URLにアクセスするのみでユーザー登録が必要なく、参加が可能なこと

を利点として感じました。

手元を映しての遠隔デモンストレーションも試しました。今回はウェブカメラが全国的に品薄だったこともあり、i phone8をビデオカメラとして使用しましたが、大きなストレスはなく共有できたそうです。高精細とまではいきませんが、リアルタイムで手元の作業を見せることができそうです。

また、課題として

・参加人数が増えると、全員が中心的な話者となるのが難しくなるかも

・オンライン独特の会話ペースがあるので、人によっては慣れ不慣れの問題が発生する

・設定によっては、プライベート空間をつなげることに抵抗がある人がいるかもしれない

などの点が挙げられました。このあたりは企画の立て方で改善したり、事前の注意喚起をしたり、世間全体がツールへ慣れていくことで解決されていく点でもあるかもしれません。なお、今回の参加者間では、参加者の協力もあり、大きなストレスは生じずに開催できたように思います。

 

今後の方向として、しばらく対面での勉強会ではなくオンラインで開催していこうという話になりました。オンライン環境の改善、企画のアイデアについてなどが話せる場も設けることを考えていきたいところです。

『Vol.1 川田知志×ストラッポ』2020年2月15日 場所:HAPSスタジオ(京都市)レポート

『Vol.1 川田知志×ストラッポ』レポート

 

※「ストラッポ」とは

フレスコの描画層のみを剥がし取る技法。

 

勉強会では、「ストラッポ」がイメージを「引き剥がし」、「別の場所に移す」技法であるという点に着目して、その材料のことや技法のこと、他の材料や利用の可能性について、実際に体験しながらブレインストーミングしていきました。

<当日の流れ>
ー HAPSのスペースについての紹介(HAPS沢田さん)
ー 『Vehicle』立ち上げについての話(加藤巧)
ー 「ストラッポ」についての話(川田知志)
ー 簡単な自己紹介(参加者)
ー 基本的なストラッポの体験。壁面の準備をしてある箇所を剥がしとる。


(ブオン=フレスコとストラッポの解説の様子)

ブオン=フレスコとストラッポの解説の様子

1、ブオン=フレスコ(湿式フレスコ。石灰モルタルを塗布した表面(水酸化カルシウム)が空気中の二酸化炭素と結びつき、炭酸カルシウムに変化するタイミングで顔料によって描画する。次第にカルサイトの層を形成する)でできた画面にあらかじめ4:1の膠水を塗布し、寒冷紗を密着させておく。このとき、膠水は布目にしっかり入れて空気が入らないようにしておく。

完全に乾燥している状態で剥がし取りの準備は完了。

(画像はあらかじめ膠水を塗布し、寒冷紗を密着させた状態で乾燥させてある描画面を剥がし取る様子)

2、剥がし取り。 寒冷紗周辺の状態を確かめながら剥がしとっていく。
(画像:実際に剥がし取りを体験する。)

(画像:表面のみが剥がし取られた壁面)

剥がし取りを一通りし終え、ティーブレイク。
知りたいこと、やりたいこと、ストラッポやフレスコの展開の可能性の話など。

3、裏打ち。
剥がし取った寒冷紗の裏から耐水性の糊材を塗布し、布を貼り付けて乾燥させる(画像:塗布の様子)。

(画像:剥がし取り後、裏打ちの完了したもの)

4、裏打ちの糊材が乾燥後、表の膠を戻し、寒冷紗を剥がしとる。
(画像:お湯で湿らせたタオルで蒸らす。)

タオルとお湯で蒸らせて膠を戻しながら、慎重に寒冷紗をめくっていく。

タオルとお湯で蒸らせて膠を戻しながら、慎重に寒冷紗をめくっていく。

(画像:技法のレパートリーについて話しながら、実際に寒冷紗の剥がし取りをしている様子)

描画面が別の布に移しとられ、ストラッポは完了。

(画像:全体をお湯で戻す方法)

ストラッポから、他の材料との関連について話したり、技法の展開について話を巡らせる。

ー理解が深まったところで、フレスコ体験も。左官、描画など。

ブオン=フレスコ体験の様子。

ーまとめ。

 

・「土」という点での陶芸などとの共通点を見つけることができそう。

・裏打ちのための素材は流動的に選択することができる。

・絵画を剥がしたり、擦ったりすることがないため、新鮮に感じた。

など感想を共有し、終了しました。